講演会&セミナー 2008年度

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2008年12月 17日 (水) 16時20分ー17時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 斎藤 成也 教授 (国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門)
題目: タンパク質非コード領域における「遺伝子」の探索

通常,遺伝子というと、たいていはタンパク質をコードしているゲノム領域を指す。エクソンーイントロン構造が存在する場合にはもう少し広く、タンパク質をコードしていない部分を含むエクソン領域を考える。また、以前からtRNA やrRNA の存在は知られているが、これらはゲノム全体からみるときわめて小さい。ところが、真核生物のゲノムには、これらの遺伝子以外のDNA 配列が圧倒的に多い。それらの大部分は、ススム・オオノが命名したがらくたDNA であり、木村資生が主唱した中立進化をしていることが現在では確立している。しかし、近年ゲノム規模で塩基配列を比較することにより、これら古典的な意味での遺伝子以外のゲノム領域で、少数ながら進化的に高度に保存されているDNA 配列が発見された。進化的な保存は淘汰上の制約を意味するので、それらはなんらかの機能があるにちがいない。表現型に影響を与えるという意味で、機能を持つDNA 配列を、広い意味での「遺伝子」と考えれば、真核生物のゲノムには、タンパク質、tRNA、rRNA 以外の遺伝子が存在することになる。このような視点から、私の研究室ではゲノム比較をしているので、それを紹介したい。

2008年12月 2日 (水) 10時40分ー12時10分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 古賀洋介 名誉教授 (産業医科大学)
題目: 古細菌のリン脂質の生合成

古細菌のリン脂質は真正細菌のリン脂質と比較してきわだった構造的特徴を有していると同時に、共通点ももっている。 我々はこの15 年間に、これらの構造が合成される仕組みを一つ一つ酵素レベルで 明らかにしてきた。 第一に、真正細菌のものとは鏡像異性体の関係にあるリン脂質のグリセロリン酸(sn-G-1-P)骨格の生成機構について述べる。次いで、CDP-DAGに相当するCDP-Archaeolの生成、セリンリン脂質の生成にふれたあと、新しい話題として、イノシトールリン脂質の新しい合成経路についてお話しする。 我々の直接研究したデータだけに絞るつもりであるが、時間があれば、他のグループによるリン脂質不飽和イソプレノイド鎖の飽和化についてもふれるかもしれない。以上を通じて古細菌の脂質の構造と生合成の独自性と真正細菌との共通性について考えてみたい。

産業医科大学を本年3月に定年退職された古賀洋介先生は、古細菌脂質の研究で世界をリードする大きな業績をあげてこられました。 数多くのお仕事のなかでも、古細菌脂質形成の根幹であるsn-G-1-P の生合成機構の研究は特に興味深いものです。 また、sn-G-1-P 膜を持つ細胞とsn-G-3-Pの膜を持つ細胞の出現が、古細菌と真正細菌の分化のきっかけになったとする仮説を提唱したことでも知られております。

2008年10月22日 (水) 16時20分ー17時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 平野 博之 教授 (東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻)
題目: 花の発生・形態形成を制御する遺伝子の機能

花は、私たちにとっては生活に潤いをもたらしてくれるものですが、植物にとっては子孫を残すための生殖器官です。花の形や大きさはきわめて多様です。その花の発生や形態を制御する分子メカニズムには、被子植物に広く保存されている一般法則があるのでしょうか? また、多様な花を生じる植物には、それぞれ独自のメカニズムや独自に働く遺伝子があるのでしょうか?本セミナーでは、まず、被子植物の花の発生を制御する遺伝メカニズムとして広く受けいれられているABC モデルとそれを構成する遺伝子の機能を解説します。次に、私たちの研究室で行っている単子葉類のモデル植物であるイネの花の発生に関する研究成果を紹介します。私たちの研究から、イネにおいては、ABC モデルの基本骨格は保存されているものの、花の発生にイネ独自の遺伝子やメカニズムが存在することが明らかになってきました。興味のある方は、次の解説・総説を参考にして下さい。

2008年9月11日 (木) 13時00分ー14時30分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 寺内 一姫 特任講師 (名古屋大学大学院理学研究科 生命理学専攻 近藤孝男グループ)
題目: シアノバクテリアの24時間を刻む KaiC タンパク質

生物は生命活動の基本機構として細胞内に概日時計をもっている。概日時計は、24 時間周期で振動すること、温度が変化しても周期は変化しないという温度補償性など固有の特徴をもつ。しかし、これら基本性質の分子メカニズムはほとんど明らかになっていない。概日時計をもつ最も単純な生物であるシアノバクテリアも真核生物と同様に概日時計特有の基本性質を保持している。我々は in vitro で KaiA、KaiB、KaiC の 3 つのタンパク質と ATP により、KaiC のリン酸化レベルが概日振動することを発見した。この概日時計の再構成系を用いて、概日時計がもつ基本性質の分子メカニズム解明を目指している。最近、KaiC が極めて低い ATPase 活性をもち、それが概日時計の周期を決定している反応であることを明らかにした。さらに、KaiC の ATPase 活性は温度補償性を示すという酵素として非常にユニークな性質を持っていることもわかってきた。現在は、KaiC がどのようなメカニズムで ATP を分解して時間を発振しているのかについて解析中である。

2008年9月10日 (水) 14時40分ー16時10分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 高木 優 博士 (独立行政法人産業技術総合研究所 ゲノムファクトリー研究部門 遺伝子転写制御研究グループリーダー)
題目: 新しい遺伝子サイレンシング法を用いた転写因子機能解析とバイオテクノロジーへの応用

植物は、光合成によって動物の生存に必須な酸素と食料を供給するばかりでなく、種々の医薬品の原料等、人類の生活を豊かにする様々な物質を供給してくれる。これら有用な物質をもたらす植物の機能をより効率的に利用するためには、個々の遺伝子の機能を知ることが必要である。特に、植物では転写レベルの制御が、遺伝子発現制御に中心的な役割を果たしていることから、転写因子の機能、すなわち、転写因子が制御する形質と標的遺伝子群を解明することが、植物機能の有効活用する上で有効な手段であると考えられている。ところが、植物の転写因子遺伝子は、大きなファミリーを形成し重複遺伝子が数多く存在することから、遺伝破壊や相補的なRNA導入等の従来の方法では、植物の転写因子の機能解析が容易ではないことが判ってきた。そこで、我々は転写抑制を強力な転写抑制因子に変換し、これを発現させることによって標的遺伝子の発現を抑制し、欠損型の表現型を誘導する新しい遺伝子サイレンシングシステム(CRES-T法)開発し、これまで困難であった重複した転写因子の機能解明を可能にした。これまでにシロイヌナズナを中心に、CRES-T法を用いて個々の転写因子の機能解明を行い、マイクロアレイ等を用いそれぞれの転写因子が制御する遺伝子のプロファイリング解析を進めた結果、マスター因子として機能する様々な転写因子が明らかになってきた。また、このシステムを用いることによって、これまでの変異体では見られなかった代謝経路を有する植物や、環境ストレスに耐性を持つ植物等が作出出来ることが判ってきた。この技術を利用して花粉の飛ばない植物や、環境ストレスに耐性を持つ植物や、物質生産に優れたこれまでにない新しい特性をもった植物の開発を行っている。今回はそれらを紹介するとともにこの技術を使った応用研究の可能性について展望を述べる。

2008年7月16日 (水) 14時40分ー16時10分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 山下純 准教授 (帝京大学)
題目: リン脂質の脂肪酸転移反応の分子機構とその意義

生体膜を構成するグリセロリン脂質の脂肪酸は固定されたものではなく、常にある種の条件で移動、転移している。脂肪酸転移反応は、リン脂質の脂肪酸組成を変化させるなど、生体膜の性質、機能と密接にかかわっていることが考えられる。脂肪酸の転移反応に関与する反応系には、様々なアシルトランスフェラーゼやトランスアシラーゼが関与する。近年、アシルトランスフェラーゼの遺伝子が徐々にクローニングされ、その分子機構が明らかにされつつあるが、その全容は明らかになっていない。本研究は、トランスアシレーション反応の分子機構の理解のため、(1)アシルCoAアシルトランスフェラーゼによるCoA依存性トランスアシレーション反応および(2)ホスホリパーゼ(cPLA2γ)によるCoA非依存性トランスアシレーション反応などを解析し、その意義を考察する。また、de novo合成系のアシルトランスフェラーゼAGPATを例に(3)アシルトランスフェラーゼの基質特異性を規定するものは何かという問題も考察する。

2008年6月11日 (水) 14時40分ー16時10分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: Prof. John C. Cushman (Department of Biochemistry & Molecular Biology, University of Nevada)
題目: Crassulacean acid metabolism (CAM): fixing CO2 in the dark to survive water deficit in the light.
    (多肉植物型酸代謝(CAM): 日中の乾燥に耐えるための夜間のCO2固定)

Ice plant(common ice plant, Mesembryanthemum crystallinum L.)は、乾燥や高濃度の塩による水ストレスで、光合成がC3型からCAM型に転換するザクロソウ科の双子葉植物で、長年、CAMに関する生理生化学的研究に用いられてきました。Cushman教授は、特にストレスによるCAM化の機構の解明に、ESTおよびマイクロアレイを用いた発現プロファイルの解析や突然変異体単離など、分子生物学的手法を導入して多くの業績を上げています。本公演では、アイスプラントで得た最新の知見とともに、熱帯性の着生ランをモデルとしたCAMの進化のメカニズムにせまる研究についても紹介されます。

Crassulacean acid metabolism (CAM) is a specialized mode of photosynthesis that is present in about 7% of terrestrial plant species that improves water-use efficiency by shifting part or all of net atmospheric CO2 uptake to the night. CAM is typically characterized by nocturnal CO2 uptake via the enzyme phosphoenolpyruvate carboxylase (PEPC), to produce malic acid from the glycolytic breakdown of carbohydrate at night, which is subsequent decarboxylated during the day to release CO2 for fixation by RuBisCO behind closed stomata during the day. In some plant species, such as the halophytic ice plant (Mesembryanthemum crystallinum L.), CAM is facultative and can be induced under conditions of environmental stress such as water deficit or high salinity. Recent research efforts that have focused on understanding the complex regulatory mechanism that control the expression of CAM by mRNA expression profiling using microarray technology will be discussed. CAM-deficient mutants that show negligible net dark CO2 uptake compared with wild type plants have been isolated and characterized and promise to provide novel insights into the metabolic regulation of CAM. Although the basic metabolic reactions required for CAM are well known, the molecular mechanisms responsible for the evolution of this important photosynthetic adaptation to water-limitation are completely uncharacterized. Investigations into the evolution of CAM in neotropical orchids are shedding new light on the mechanisms about how and why CAM evolved in environments that have limited or intermittent water availability.

2008年5月30日 (金) 16時20分ー17時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー

演者: 古園 さおり 博士
題目: 細菌のマルチコンポーネント型Na+/H+対向輸送体(Mrp/Sha輸送体)とイオン恒常性

イオン恒常性(イオンホメオスタシス)は、細菌が極限的なアルカリ環境や変動する塩環境に適応するために重要な性質である。Mrp/Sha輸送体(以下、Sha輸送体)は、好アルカリ性細菌Bacillus haloduransのアルカリ適応に必須なpHホメオスタシス機能として見いだされたNa+/H+対向輸送体である。その後次々と細菌のゲノム配列が明らかになるにつれ、「好アルカリ因子」として見いだされたSha輸送体は、枯草菌や緑膿菌などいわゆる「中性菌」にも見つかるようになる。また、これまでに知られるNa+/H+アンチポーターが1遺伝子にコードされるのに対し、Sha輸送体は保存された7遺伝子(shaABCDEFG)として存在する特徴を有していた。今回の発表では、この構造的にユニークな特徴を有するSha輸送体の成り立ちと、Sha輸送体が担うイオン恒常性が細菌にとってどのような意義を持つのかについて、私のこれまでの研究を紹介したい。

枯草菌由来shaABCDEFGクラスターは、主要Na+/H+アンチポーターを欠損した大腸菌KNabc株を相補することから、Na+/H+アンチポーターをコードしていると考えられる。また枯草菌においてshaABCDEFGのうちいずれかを欠損させた株はいずれも顕著なNaCl感受性を示したことから、shaABCDEFGはNa+ホメオスタシスを担う1つの機能単位、つまり複合体を形成している可能性が考えられた。私たちは、Hisタグを用いたプルダウンアッセイとBN-PAGEにより、shaA-G遺伝子産物が1つの複合体を形成することを証明した。また膜貫通領域内に位置する酸性アミノ酸残基に注目した変異解析により、複合体のうちShaA, ShaB, ShaDサブユニットがイオン輸送通路を形成する可能性を考えている。Sha輸送体は1遺伝子型のNa+/H+アンチポーターとは全く異なる輸送メカニズムを有しているかもしれず、今後より詳細な分子構造解析が待たれる。

好アルカリ性でない細菌におけるSha輸送体の役割は何であろうか?そのことを明らかにするために、枯草菌及び緑膿菌におけるSha輸送体の生理的役割について丹念に解析を進めた。Sha輸送体は(pHでなく)Na+ホメオスタシスの中心的な役割を担っており、枯草菌では胞子形成、緑膿菌では病原性に関与することが明らかとなった。そのメカニズムを検討したところ、いずれも定常期に誘導されるシグマ因子の活性化に異常があることが見えてきた。Sha輸送体が担うNa+ホメオスタシスは、細菌の定常期移行に必須のようである。詳細なメカニズムは不明であるが、Sha輸送体の定常期移行への関与は、病原菌の無毒化等への応用も考えられ、興味深いと考えている。

2008年1月23日 (水) 16時20分ー17時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科・コース新任教員セミナー

演者: 松岡 聡 博士
題目: セルラーゼ複合体“セルロソーム”の解析 ―カリフォルニア大学デーヴィス校での研究 ―

松岡聡氏は、理学部分子生物学科(2000年3月卒業)・大学院博士前期課程分子生物学コース/博士後期課程生命科学専攻(2005年3月修了;当時は分子生物学専攻/生物環境化学専攻)の卒業生で、昨年末カリフォルニア大学から帰国し、今年1月1日付けで助教として母校で研究・教育に参加することになりました。話題は、カリフォルニア大学デーヴィス校のRoy H. Doi教授の研究室での研究成果が中心でした。植物バイオマスがエネルギー資源として利用するのには非常に安定で分解されにくいという問題の解決をめざして、嫌気性のクロストリディウム属の細菌がつくる“セルロソーム”(セルロース・ヘミセルロース分解に働く大きなタンパク質複合体)を、分子生物学的研究に適した枯草菌につくらせて構造・機能を解析し、実用化に向けた改変を試みた研究です。学部学生にもわかるよう丁寧に解説していただきました。 

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