在学生からのメッセージ

学部生の生活

大学に入学するにあたって私には、2つ不安なことがありました。1つは、大学で新しくできる友人たちと楽しい大学生活が送れるかどうか。しかし、この不安は入学してすぐに吹き飛びました。分子生物学科は1学年が40人程度と比較的少なく、同級生とは高校のクラスメートのようです。私は、サークルには所属していませんでしたが、楽しい学生生活を送ることができました。2つめは、講義についていけるかどうか。ですが、こんな心配も無用でした。1年生は、分子生物学の基礎に加えて、語学、教養科目を中心に勉強することになります。いきなり専門的な講義があるわけでもありませんし、先生方もしっかりサポートして下さいます。高校と異なっているのは自分で時間割を組むことです。工夫次第では自由な時間を作ることができ、自主的に動くことでいろいろな経験を積むことができます。2年生になると学生実習が始まります。実験器具の使い方、生化学、生物学実験の基礎から始まり、3年生になるとさらに専門的な内容になります。講義で学んだことを実際に手を動かして経験することでさらに理解が深まります。そして4年生では、ほとんどの学生が卒業研究を行います。自分で研究室とテーマを選び、1年間実験を行っていきます。私は遺伝子の発現制御の仕組みに興味をもっていたので、卒業研究で、機能未知の転写因子の機能解析を行うことにしました。転写因子というのは、遺伝子の発現の促進、抑制を行うタンパク質の一群です。転写因子が、環境の変化に応じて遺伝子の発現制御を行うことで、生物は環境に適応できると考えられています。では、機能解析の流れを簡単に説明してみます。まずは、バクテリアの機能未知の転写因子をコードする遺伝子を破壊します。すると、その転写因子をもたないバクテリアが得られます。そこで、その転写因子をもつバクテリアともたないバクテリアでは何が異なっているか、ということを様々な観点から調べていきます。その2種のバクテリアの「差」をみることでその転写因子が何をしているかを明らかにしていこう、ということです。ここまで簡単に書いてみましたが、実際には実験がうまくいかないことも少なからずあります。しかし、それにはなにか原因があるはずで、その問題点を改善しながら研究をしていくことになります。それは楽なことではありませんが、実験がうまくいったときは他では味わえない達成感が得られます。私にとって、先生、先輩方にアドバイスを頂きながら、アットホームな雰囲気で卒業研究を行うことができた1年はとても充実していました。(K.Nさん)


研究室に所属してから早半年が経過し、卒業研究も折り返し地点を過ぎた今日、思い返すとこの半年は本当にあっという間だった。それほどまでにこの半年の間に私は、濃密な時間を過ごし、貴重な体験をしたのだと思う。

昨年のちょうど今頃、現在所属する研究室の先輩がセミナーで研究発表しているのを聴き、同研究室への配属を第一希望とすることを決めた。その発表の概略については割愛するが、生物全般に普遍的に存在する遺伝子発現系、それを制御する因子に焦点を当てている研究が、生命のより深くにある本質的な部分に、最も迫ることのできる手段の一つであるように思い、魅力を感じた。実際にその研究に身を投じることとなった今でも、その時に感じた魅力は褪せていない。

私が所属する研究室の先行研究は、主としてある種の細菌を材料として行われており、多くの知見が得られてきた。私の卒業研究では、先行研究から明らかになってきた遺伝子発現系の制御が、共通する特徴を有する生物種間における普遍性を見出すことを目的としている。しかし、卒業研究を始めて三ヶ月が過ぎた頃になっても(費やした時間の問題ではないが)、当初期待していた“普遍性”を示唆する結果は得られなかった。その時は「貧乏くじを引いた」とも思ったが、その反面で、『ある共通した特徴を有する生物だから、といって簡単に一括りにはできない』、『生物は我々が容易に考えつくほど単純ではない』ということを早くに肌で感じることができたことは、大学院に進学して研究を続ける私にとっては掛替えのない、何よりの経験だったと思う。


写真1。BRCの皆さんとの懇談の様子。

そんな折、本学の世界環流プログラム(このプログラムは、学部学生の国際経験拡大を積極的に支援することを目的としている)の一環として、西山先生と共にHungarian Academy of SciencesのBiological Research Centre(以下、BRC)へ行く機会を頂いた。BRCでは西山先生のかつての同僚の方々が研究室を設けており、訪問・見学させて頂いた。研究室の様子や設備、昨今の研究成果などについての話をなさっていたのだが、私には何を言っているのかほとんど分からなかった、というのが正直なところである。それまで英語に対する苦手意識はあまりなかったのだが、英語は読むこと、書くこと以上に、聞き取ること、話すことが非常に困難であるということを切に感じた。私が聞き取れるように気遣い、ゆっくりと話して下さった時でさえ、理解が及ばない自分がもどかしかった。理解できないなりにも懸命に聞き取ろうと耳を欹てるうちに、それとなく話の内容を察することができるようになった。BRCの方々と膝を交えるなかで、特に感銘を受けたのは、歴史や文化、芸術などに対する彼らの教養が非常に高いことであった。それがサイエンスの世界でも国際的に広く活躍するには不可欠な要素であると感じると同時に、時間割のほとんどが教養科目ばかりだった大学一年の時に、自分の興味よりも単位を容易に取得できることを優先して講義を選択したことを、この時初めて後悔した。今後はサイエンス以外にも幅広い興味関心の視野をもち、折に触れて教養を深めたいと思う。


写真2。国際学会の会場Hungarian Academy of Sciences。

またハンガリー滞在期間中には、学部学生にして国際学会に参加するという稀有な経験もさせて頂いた。「積極的に交流を図らないと爪弾きにあう」と西山先生から事前に言われていた(脅されていた?)私は、拙い英語ながらも積極的に交流を図るよう努めた。参加者には博士課程の学生やポスドクが多く、比較的年齢が近いこと、また国際学会の雰囲気が意外にもフランクであったことも助け、容易に打ち解けることができた。交流を深めるほどに、話の内容の半分程度かそれ以下しか理解できず、伝えたいことも満足に伝えられない自分へのもどかしさを痛感したのだが、何より歯痒かったことは「君の研究発表はどれ?」と尋ねられた際に「私は研究発表しない」と答えざるえないことだった。会話の中で折に触れて自らの研究成果や知見を語らう彼らが、たいへん羨ましく思えた。サイエンスを契機として交流を図る上では、独自の研究成果や知見を有し、それを堂々と語れる人間でありたい、とこの時私は切に願った。もしまた国際学会に参加する機会が得られたならば、是非ともそうありたい。

大学院進学も無事に決まった現在、“遺伝子発現系の制御の普遍性”を見出すために、別の角度から研究を進めている。この半年の間に経験したことや折に触れて思ったこと、感じたことは今後も研究していくための糧となるだろう。また、そうすることがこれらの体験をする上で、お世話になった方々への最大の報効だと考えている。(T. Yさん)

大学院生の生活

大学院生の生活はどういうものなのか、私の研究室での生活について簡単に紹介したいと思います。大学に居る時間の大半は研究室で実験や調べものをしています。私の場合は朝10時から夕方まで、遅い時は夜9時くらいまで研究室にいます。土日は基本的には休みです。自分自身で実験の計画を立てられるので、帰宅時間は日によって様々です。自分自身で実験の計画を立てることで計画性や思考能力が身につきます。研究室では、週に1~2回、研究室の全員が集まって行うセミナーがあり、自分の興味を持った英語論文を紹介し、その後内容についてディスカッションしています。論文を紹介することで知識を広げるだけでなく、英語能力も向上します。セミナーの準備は大変ですが、自分の研究に関する論文を読むと自分の研究の重要性が分かり、研究する意欲が沸いて来ます。また、夏休み前や冬休み前には集中講義があり、分子生物学分野の最先端の講義を受けることが出来ます。

大学院生の生活は研究だけかと思われがちですが、年に2、3回は分子生物学コース全体でバーベキューや球技大会などの催し物を行ったり、研究室で旅行に行ったりしています。私の研究室では、去年の10月に国立大学共同利用の草津セミナーハウスへ行き、温泉やレクリエーションを楽しみました。また、夏休みや冬休み前、卒業研究発表後などにはコンパも行っています。コンパには研究室のOBやOGの方も良くいらっしゃいます。

分子生物学は急速に発展している学問なので勉強することが多く、生物を扱った複雑な実験操作も多くて大変なこともありますが、1つ1つの実験が成功して成果が出た時の充実感は何にも代えられません。また世界中で誰もわかっていないことを自分の手で解明することが出来る面白みがあります。皆さん、私と一緒に生物の未知の世界を探求してみませんか。 (F・Mさん)


他大学で微生物の研究をしていた私は、大学院進学にあたり高等生物の研究に携わりたいと考え、埼玉大学大学院に進学しました。大学院での研究テーマはシロイヌナズナのペクチン酸リアーゼです。大学の近くに下宿し、全く新しい分野に飛び込んで研究生活に没頭した2年間でした。科学の世界においては、多くの研究が明らかにしてきた事柄を学び、さらに新しい事実を発見することが求められます。そこに至る道のりは、それがどんな小さな事実であろうと決して楽なものではありません。それだけに、世界で初めて何かを証明することは大きな達成感と新たな意欲を湧かせてくれるものとなります。私はこれまで詳しく知られていなかった植物ペクチン酸リアーゼの機能の一部を明らかにする研究に携わることができましたが、多くの文献を読んだり、いろいろな人と議論したり、工夫を重ねて実験を繰り返したりしたからかこそ達成することができたと思います。もちろん苦しい時期もありましたが、それを乗り越えることで本当に貴重な経験を得ることができました。また、先生、先輩や友人たちのアドバイスや励ましに、おおいに支えられました。すばらしい人たちとの出会いも経験することができ、私の人生においてとても大きな意味を持つ2年間だと思います。今はまた他分野に踏み出して忙しい日々を送っていますが、これから先の人生にもずっと影響を与え続けてくれる意義深い大学院生活でした。  (M・Mさん)


知識欲「なんでだろう?…知りたい!」

私が幼い頃、普段の生活の中には、「空はなんで青いの?」「ずっと昔のヒトはどこから来たの?」「なんで火星に木はないの?」「世界で一番小さいものはなに?」など、不思議なことやわからないことだらけで、不安にさえなったこともありました。しかし、その答えを知ることができ、すっきりとした経験もあったのではないかと思います。子どものような好奇心と知識欲を旺盛に「知りたい」と思うことを大切にする、埼玉大学の分子生物学科はそんな人がたくさんいる学科です。

研究生活「世界中で私だけのテーマ」

多くの学部生は、大学院への進学と就職の選択を迫られると、早く就職して自立しようと考えるのではないかと思います。なぜなら、学部で学ぶ「学生実習」の多くは、皆と同じテーマに取り組み、テキストの通りに実験を進め、レポートを書いて終わり。受け身で自主性が乏しくとも成立してしまうことが多く、実験の面白さをあまり感じることのないまま、就職か進学の選択を迫られれば、消去法で就職を選んでしまうのではないかと思います。しかしながら、学部4年になると研究室に配属され、世界中で誰も同じことをやっていない「私だけのテーマ」を自分で決め、研究を進めて行きます。そして、それまでに習った実験技術と先生や先輩の助言をもって、「結果」を出すことの面白さ、それを発表することによって得られる周りの賞賛を味わうのです。この醍醐味を経験してから、就職か進学を決めても遅くないのではないかと思います。

私は、修士課程までは行きたいと思っていましたが、実験の面白さを知ってから博士課程への進学を決めました。楽しいと思うと没頭する性格も手伝って、一生の趣味であるダンスに並んで、研究という新たな楽しみを発見したわけです。今では、先生の力を借りながらも、自らの力で①やりたいこと、つまりテーマを見つけ、②実験計画を立て、③結果を出し、④結果から導かれる現象を考察し、⑤学会で発表するというサイクルをこなしています。もちろん、楽しいことばかりではなく、実験がうまく行かないとき、結果が仮説に反するときや、先生との厳しい議論によって落ち込むこともあるでしょう。でも、そうして苦しみながらも得ることのできた素晴らしい結果によって、痛みは昇華してしまうものなのです。

「でも、大学院まで行くお金はない…」「親に迷惑をかけたくない…」こうした意見のもと、大学院への進学を諦めてしまう人も多いかと思われます。たとえ奨学金を受けていたとしても、就職してお給料をもらった方が得だろうと思っている人は多いのです。私もそのひとりでした。しかしながら、実は、私はある制度のおかげで学生にして社会人と同等のお給料をもらっています。この制度は、独立行政法人日本学術振興会の特別研究員制度というもので、日本の若手研究者の養成・確保を図ることを目的として、採択された研究者に給料(研究奨励金)と研究費が支給されるというものです(http://www.jsps.go.jp/j-pd/index.html)。私の場合は博士課程2年からの採用でしたが(DC2)、早い人では博士課程1年から採用されることもあります(DC1)。ただ、誰でも採用されるという訳ではありませんので、早いうちから研究業績をあげ、有望な研究計画を熟考することをお勧めします。がんばるだけの価値は確実にあります!

学会「研究発表、情報収集ときどき異文化交流」

自らの研究成果を学会で発表することで様々な先生・先輩方や同士といえる若手の研究者にもらう激励の言葉は私を勇気づけ、様々な苦労が酬われる瞬間となります。また、学会では各分野に関する最先端の情報を得ることができ、それを自らの研究に応用させるようなアイデアをもたらします。興味深い発見をした研究者の発表会場には部屋に収まりきらない聴衆が詰めかけ、質疑応答も盛んに行われていました。その光景を目にして、いつか私もこのように科学分野に大きな貢献ができたらと憧れを抱いたのは忘れません。


GRC(Houston, USA)の参加者と

さらに、国際学会では、アメリカ、ヨーロッパやアジア諸国など様々な国に渡航する機会を頂きました。異国の学生はたとえ第一言語でなくとも英語を流暢に使い、積極的にディスカッションし、ジョークを挟みながら会話を楽しむことに長けていました。それまで英語を話すことに自信を持てなかった私は、愛想笑いを決め込みながらひたすらショックを受けていました。その後、博士1年のときに名誉ある国際学会(Gordon Research Conference; GRC)で口頭発表のお誘いを頂き、一生懸命準備をして挑みました。すべて記憶していたはずの文章は大御所の先生方を目の前にして真っ白になってしまいましたが、なんとかやり遂げた発表の後には、「Nice talk!!」「You did a good job!」と多くの人が賞賛の声をかけてくれたのです。その時の達成感は一生忘れられないものになりました。英語が話せない?語彙が少ない?でも大丈夫、積極的に話せさえすれば、それらは後からついてくるものなのです。積極的に会話し意見を得ることの重要さ、そこから生まれる人との繋がりがもたらす利益を理解すれば、あなたの世界と可能性は確実に広がります。


POSTECH(Pohang, Korea)の研究室の仲間と

また、世界環流プログラムで一ヶ月間滞在させていただいたアジアトップクラスの大学である韓国のPOSTECH(ポハン工科大学)では、多くのことを学びました。POSTECHの学生は、研究者としての意識が高いだけではなく、皆でスポーツを楽しみ、お酒を楽しみ、エネルギッシュに人生を楽しんでいたのです。卒業を目前にして、研究室にこもって塞いでいた私にはとても印象深く、有意義な経験になりました。研究とプライベートを両立させてこそ楽しめる、国際交流によって学んだことの一つです。

ひとつでも当てはまれば、ここで一緒に研究者を目指しませんか?
もしも迷っているなら、私は迷わずお薦めします。(Y・Yさん)

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