研究業績 2020年度
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原著論文
- Saito M, Watanabe S, Nimura-Matsune K, Yoshikawa H, Nakamoto H (2020) Regulation of the groESL1 transcription by the HrcA repressor and a novel transcription factor Orf7.5
in the cyanobacterium Synechococcus elongatus PCC7942. J Gen Appl Microbiol 66:85-92
- 大腸菌の熱ショック応答(Hspの発現調節)は、シグマ32因子によって(正に)調節されます。私たちは、シアノバクテリアSynechocystis PCC6803の主要分子シャペロンGroELをコードするgroEL遺伝子の発現には、シグマ32因子ではなく、枯草菌で明らかにされたHrcAリプレッサーによる負の調節が関与することを明らかにしました。さらにシアノバクテリアでは、(大腸菌や枯草菌には存在しない)新規な調節(塩基)配列K-boxを介した正の調節も関与することを示しました。本論文では、シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC7942のgroEL遺伝子の発現調節には、Synechocystis PCC6803には存在しないOrf7.5因子とHrcAが関与することを示しました。即ち、groEL遺伝子の発現調節は、シアノバクテリアの種間でも異なるわけです。(代謝学:仲本)
- Yuasa K, Shikata T, Kitatsuji S, Yamasaki Y and Nishiyama Y (2020) Extracellular secretion of superoxide is regulated by photosynthetic electron
transport in the noxious red-tide-forming raphidophyte Chattonella antiqua. J Photochem Photobiol B: Biol 205: 111839
- ラフィド藻Chattonella antiquaは、養殖魚を斃死させて甚大な漁業被害を招く有害赤潮形成藻類である。魚毒性機構は未だ未解明であるが、C. antiquaが細胞外へ産出するスーパーオキシドと魚毒性に高い相関がある。本研究では、スーパーオキシド産生活性が光合成電子伝達によって制御されることを見出した。さらに、カルビンサイクルを特異的な阻害剤で抑制したときにスーパーオキシド産生活性が上昇することからも、スーパーオキシド産生に光合成由来のNADPHが使用されていることが示唆された。(環境応答:西山)
- Nishiyama Y (2020) Resilience under climate change. Nat Plants 6: 442-443
- 光化学系IIの活性を維持するためには、反応中心のD1タンパク質の速い代謝回転が不可欠である。光化学系IIは光によって絶えず損傷を受けるが、損傷を受けたD1タンパク質が分解され、新たに合成されたD1タンパク質が挿入され、そのC末端部分がプロセシングを受けて修復される。D1タンパク質は葉緑体DNAにコードされているが、D1タンパク質をコードする遺伝子psbAを強力なプロモーターと葉緑体移行シグナルを付けて核ゲノムに導入した形質転換植物が作製され、ストレス耐性が大幅に向上した。本論文では、D1タンパク質の代謝回転の重要性と生理学的意義について最新の知見を紹介している。(環境応答:西山)
- Izuhara T, Kaihatsu I, Jimbo H, Takaichi S and Nishiyama Y (2020) Elevated levels of specific carotenoids during acclimation to strong light
protect the repair of photosystem II in Synechocystis sp. PCC 6803. Front Plant Sci 11: 1030
- シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803が強光環境に順化すると、光化学系IIの強光耐性が増大する。その際、光化学系IIの修復能力が著しく増大し、ゼアキサンチン、エキネノン、ミキソキサントフィルなどのカロテノイドが高蓄積することがわかった。これらのカロテノイドが欠損すると、一重項酸素の発生が上昇し、光化学系IIの修復能力が著しく損なわれることから、高蓄積したカロテノイドが光化学系IIの修復を酸化ストレスから保護して、修復能力を向上させていることが示唆された。(環境応答:西山)
- Shikata T, Kitatsuji S, Abe K, Onitsuka G, Matsubara T, Nakayama N, Yuasa K, Nishiyama Y, Mizuno K, Masuda T and Nagai K (2020) Vertical distribution of a harmful red-tide dinoflagellate, Karenia mikimotoi, at the decline stage of blooms. J Sea Res 165: 101960.
- 渦鞭毛藻Karenia mikimotoiは、赤潮を形成して魚類を斃死させる有害藻類である。この種も他の有害種と同様に日周鉛直移動によって夜間は海面下深いところに潜り込むが、日中は海面付近まで上昇する。本研究では、フィールド調査の結果、生育環境中の栄養塩(窒素およびリン)の濃度が低下すると、日周鉛直運動が著しく妨げられることを見出した。この調査結果は、貧栄養によって水面付近に停滞し、光合成が光阻害を受けるという室内実験の結果と一致する。また、この状態は、K. mikimotoi赤潮の衰退を反映していることが示唆される。(環境応答:西山)
- Jimbo H, Takagi K, Hirashima T, Nishiyama Y and Wada H (2020) Long-chain saturated fatty acids, palmitic and stearic acids, enhance the
repair of photosystem II. Intl J Mol Sci 21:7509
- シアノバクテリアを用いた遊離脂肪酸(FFA)の生産は、藻類バイオ燃料生産の技術開発で重要な課題である。しかし、FFAは細胞内に高蓄積すると毒性を示す。本研究では、ラウリン酸(12:0)やα-リノレン酸(18:3)などのFFAは光化学系IIの光阻害を促進することを見出した。一方、パルミチン酸(16:0)やステアリン酸(18:0)は逆に光化学系IIの修復を促進して光阻害を緩和することを見出した。(環境応答:西山)
- Yuasa K, Shikata T, Ichikawa T, Tamura Y and Nishiyama Y (2020) Nutrient deficiency stimulates the production of superoxide in the noxious
red-tide-forming raphidophyte Chattonella antiqua. Harmful Algae 99:101938
- ラフィド藻Chattonella antiquaは、養殖魚を斃死させて甚大な漁業被害を招く有害赤潮形成藻類である。魚毒性機構は未だ未解明であるが、C. antiquaが細胞外へ産出するスーパーオキシドと魚毒性に高い相関がある。以前にスーパーオキシド産生が光合成電子伝達によって制御されることを報告したが、本研究では、スーパーオキシド産生が貧栄養によっても促進することを見出した。窒素やリンが欠乏すると、光合成活性は著しく低下するが、スーパーオキシド産生は増大する。その際、NADPH/NADP+比が上昇することから、細胞内の過還元状態を解消するためスーパーオキシドを産生していることが示唆される。実環境中でも貧栄養条件でC. antiquaの魚毒性が上がることが観察されており、本研究によってそのメカニズム解明への理解が進んだ(環境応答:西山)
- Abe Y, Meguriya K, Matsuzaki T, Sugiyama T, Yoshikawa HY, Morita MT, Toyota
M (2020) Micromanipulation of amyloplasts with optical tweezers in Arabidopsis stems. Plant Biotechnol 37: 405-415
- 多くの植物は、デンプンが蓄積した色素体(アミロプラスト)の沈降を利用して重力を感知していると考えられている。我々は、光ピンセットを組み込んだ共焦点レーザー顕微鏡システムを構築し、植物細胞内のアミロプラストを遠隔操作しながら、高時空間分解能で蛍光イメージングできる技術を報告した。(細胞情報:豊田)
- Hagihara T, Toyota M (2020) Mechanical Signaling in the Sensitive Plant Mimosa pudica L. Plants 9: 587
- 指で触れると順々に葉を閉じるオジギソウは、非常に古くから研究されているが、未だにどのような仕組みを用いて刺激情報を伝搬し、葉の閉合運動を引き起こしているのかは明らかになっていない。我々は、過去の論文や知見を精査し、神経や筋肉を有さないオジギソウの高速情報伝搬・運動モデルを概説した。本論文は、今号の表紙に選出された。(細胞情報:豊田)
- Suda H, Mano H, Toyota M, Fukushima K, Mimura T, Tsutsui I, Hedrich R, Tamada Y, Hasebe M (2020) Calcium dynamics during trap closure visualized in transgenic Venus flytrap. Nature Plants 6: 1219-1224
- 食虫植物であるハエトリソウは捕虫葉の内側に6本の感覚毛を有し、昆虫などの獲物が、この感覚毛に触れると瞬時に葉を閉じる。我々は、カルシウムイオン(Ca2+)のバイオセンサーを恒常的に発現させたハエトリソウを作出し、捕虫葉の高速運動を引き起こすCa2+シグナルの可視化に成功した。本論文は、今号の表紙に選出された。(細胞情報:豊田)
- Nozawa A, Ito D, Ibrahim M, Santos H, Tsuboi T, Tozawa Y (2020) Characterization of mitochondrial carrier proteins of malaria parasite
Plasmodium falciparum based on in vitro translation and reconstitution. Parasitol Int 79:102160
- 熱帯熱マラリアを引き起こす原虫Plasmodium falciparumは、独自に進化したミトコンドリア代謝系を有する。本研究では、無細胞翻訳系を利用したマラリア原虫のミトコンドリア膜輸送体(MC)の機能解析を進め、新たに4種のMCタンパク質の基質輸送活性を明らかにした。さらに、3種のMCの基質輸送活性がカルジオリピンの存在下で亢進するすることを見出した。これらの知見は、創薬研究に重要な基盤情報となる。(タンパク質科学:戸澤)
- Suzuki K, Inoue H, Matsuoka S, Tero R, Hirano-Iwata A, Tozawa Y (2020) Establishment of a cell-free translation system from rice callus extracts.
Biosci Biotechnol Biochem 84:2028-2036
- 無細胞翻訳系は生化学基盤技術の一つとして幅広い研究分野で利用されている。本研究では、高精度のゲノム解析が終了し、かつゲノム編集や形質転換による細胞機能改変技術が充実しているモデル植物のイネを材料として、その培養細胞から新たに無細胞翻訳系の構築を進めた。蛍光タンパク質やヒト膜タンパク質の合成も可能な系として、また、植物翻訳システムの基礎研究の材料として有用な技術となると期待される。(タンパク質科学:戸澤、松岡)
- Moog D, Nozawa A, Tozawa Y, Kamikawa R (2020) Substrate specificity of plastid phosphate transporters in a non-photosynthetic
diatom and its implication in evolution of red alga-derived complex plastids.
Sci Rep 10: 1167
- 藻類の色素体獲得およびその後の進化の過程には、取り込んだ原始的なラン藻の膜系への代謝物の輸送系の構築が必要不可欠である。しかしながら、植物の外膜、内膜の2重膜構造と異なり、多くの藻類は色素体を4重膜が取り囲んでいる。本研究では、リン酸化糖の細胞質からマトリクスへの輸送に関わる輸送体を無細胞翻訳系により機能解析すると同時に、抗体染色により4重膜のどの膜にそれぞれの輸送体が局在するかを明らかにすることに成功した。この手法は、病原性を持つマラリア原虫などの色素体(アピコプラスト)の輸送体機能解析にも応用可能である。(タンパク質科学:戸澤)
- Ikeda M, Takahashi M, Fujiwara S, Mitsuda N, Ohme-Takagi M (2020) Improving the efficiency of adventitious shoot induction and somatic embryogenesis
via modification of WUSCHEL and LEAFY COTYLEDON 1. Plants (Basel) 9:1434
- 多細胞生物の受精卵は個体の全ての細胞になりうる「分化全能性」を有しますが、個体の発生に伴って個々の細胞は分化全能性を失い、特定の機能を持つように「分化」します。動物のiPS細胞は一度分化した体細胞が分化全能性の一部を取り戻した状態ですが、このような特殊な例を除き、分化した動物細胞は全能性を発揮することはありません。一方で、植物細胞は一定の環境下に置かれることで脱分化し、分化全能性を発揮、新たな個体を再生することが知られています。我々は、この細胞の分化全能性を発揮させる分化制御転写因子について研究を行なっており、本研究においては、分化制御転写因子のドメインを改変することで、細胞の分化全能性を効率的に発揮させる方法を示しました。本研究成果は、有用作物品種のクローン増殖や、ゲノム編集作物の開発などへの寄与が期待されます。(植物機能制御:池田)
- Yoshimi Y, Hara K, Yoshimura M, Tanaka N, Higaki T, Tsumuraya Y, Kotake T (2020) Expression of a fungal exo-β-1,3-galactanase in Arabidopsis reveals a role of type II arabinogalactan in the regulation of cell shape. J Exp Bot 71: 5414-5424
- 植物に普遍的存在する細胞外プロテオグリカンであるAGPは、大きなアラビノガラクタン(AG)糖鎖をもち糖鎖がその機能に重要であると考えられていたが、これを証明した研究例はほとんどなかった。そこで、真菌がもつ特異的なAG糖鎖分解酵素の遺伝子をシロイヌナズナに導入することで、AG糖鎖の主鎖が破壊される植物を作出した。この植物ではAG糖鎖がばらばらに分解されていることが確認され、著しい組織形態の異常が見られた。本研究からAGPのAG糖鎖が植物の細胞形態の制御に重要であることが示された。(植物糖鎖:小竹)
- Lopez-Hernandez F, Tryfona T, Rizza A, Yu X, Harris MO, Webb AAR, Kotake T, Dupree P (2020) Calcium binding by arabinogalactan polysaccharides is important for normal
plant development. Plant Cell 32: 3346-3369
- 植物の細胞外プロテオグリカンAGPの糖鎖は、その末端にグルクロン酸という酸性の糖残基をもっている。この糖残基は、植物がカルシウムを利用する際にカルシウムのキャパシターのような働きをすることが提案されていた。そこで、グルクロン酸残基の合成に関わる3つの遺伝子を破壊したシロイヌナズナの三重変異体を作出して、その性質を調べた。興味深いことに、三重変異体ではAGPのグルクロン酸残基の大半が失われ、その成長ではカルシウム要求性の性質が見られた。少なくともAGPのグルクロン酸残基が細胞外のカルシウム利用に不可欠な役割を果たしていることが分かった。本研究は、イギリス・ケンブリッジ大学との共同研究である。(植物糖鎖:小竹)
- Ito K, Fukuoka K, Nishigaki N, Hara K, Yoshimi Y, Kuki H, Takahashi D, Tsumuraya Y, Kotake T (2020) Structural features conserved in subclass of type II arabinogalactan. Plant Biotechnol 37: 459-463
- 植物の細胞外プロテオグリカンであるAGPは、そのアラビノガラクタン(AG)糖鎖の構造に多様性が存在することが知られている。一方で、植物種を超えた糖鎖構造の共通性については調べられてこなかった。そこで、チンゲンサイやキュウリなどの様々な植物からAGPを簡易抽出し、特異的な酵素による断片化を利用して、それぞれの糖鎖構造の特徴を調べた。興味深いことに、主鎖・側鎖の分岐率や側鎖長の分布は植物種間であまり変わらず、保存されていることが分かった。今後はこの共通構造の生理的な意義を調べる必要がある。(植物糖鎖:小竹)
- Matsuyama K, Kishine N, Fujimoto Z, Sunagawa N, Kotake T, Tsumuraya Y, Samejima M, Igarashi K, Kaneko S (2020) Crystal structure of GH43 exo-β-1,3-galactanase from the basidiomycete Phanerochaete chrysosporium provides insights into the mechanism of bypassing side chains. J Biol
Chem 295: 18539-18552
- 植物の細胞壁や細胞膜に普遍的存在するアラビノガラクタン-プロテイン(AGP)は、β-1,3-ガラクタンを主鎖、β-1,6-ガラクタンを側鎖とする大きな糖鎖を持つタンパク質で、植物の細胞外プロテオグリカンと呼ばれる。本学名誉教授の円谷陽一は1990年に、この糖鎖を特異的かつ効率的に分解する酵素、エキソ-β-1,3-ガラクタナーゼ(酵素番号:3.2.1.145)をキノコから発見した。この酵素は、側鎖のあるなしに関わらず主鎖を非還元末端から順に分解できる特殊な酵素であるが、東京大学や琉球大学との共同研究で、この酵素が反応の際に側鎖が立体障壁にならない構造をもっていることがわかった。(植物糖鎖:小竹)
- Tanaka M, Ishikawa T, Tamura S, Saito Y, Kawai-Yamada M, Hihara Y (2020)
Quantitative and qualitative analyses of triacylglycerol production in
the wild-type cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803 and the strain expressing AtfA from Acinetobacter baylyi ADP1. Plant Cell Physiol 61:1537-1547
- シアノバクテリアによるトリアシルグリセロール (TAG) 蓄積の報告は古くから散見されるものの、その真偽は不明であった。本研究では、Acinetobacter baylyi ADP1由来のTAG合成酵素 AtfAをSynechocystis sp. PCC 6803に導入することでTAGの蓄積に成功したと同時に、野生株の中性脂質を薄層クロマトグラフィーにより展開した際に検出されるTAG標準物質位置のスポットは、Slr2103により合成される未知の脂質であり、野生株におけるTAGの合成はごく微量であることを示した。本研究はPCPのResearchハイライトに取り上げられ、遺伝子発現制御研において本研究を行った3名の卒業生が写真付きで紹介された上、本論文についてのCommentary記事が掲載された。(植物環境科学:石川、川合、遺伝子発現制御:日原)
- Takashima K, Nagao S, Kizawa A, Suzuki T, Dohmae N, Hihara Y (2020) The role of transcriptional repressor activity of LexA in salt-stress responses of the cyanobacterium Synechocystis sp. PCC 6803. Sci Rep 10:17393
- 本研究ではSynechocystis sp. PCC 6803において、LexA転写因子が多くの塩ストレス誘導性遺伝子のリプレッサーとして働くものの、これらの遺伝子の塩ストレス下での誘導はLexAに依存しないこと、一部のLexA分子においてSer173が塩ストレス下で脱リン酸化されることを見出した。これらの結果から、従属栄養細菌のLexAが自己切断による不活化によりSOS応答を誘導するのとは異なり、シアノバクテリアのLexAは環境条件の変動に対して、リン酸化状態を部分的に変化させることにより、遺伝子発現の微調整に働いているのではないかと考えられる。(遺伝子発現制御:日原)
- Nagahage ISP, Sakamoto S, Nagano M, Ishikawa T, Mitsuda N, Kawai-Yamada M, Yamaguchi M (2020) An Arabidopsis NAC domain transcription factor, ATAF2, promotes age-dependent
and dark-induced leaf senescence. Physiol Plant 170:299-308
- 私たちの研究室では、以前NACドメイン転写因子であるATAF2が、老化を制御するORE1の発現を制御することを明らかにした。そこで、ATAF2と老化の関係を調べるために、過剰発現体や機能欠損体を用いて解析を行った。その結果ATAF2は、ORE1以外にも様々な老化に関与する遺伝子群の発現を制御することで、齢に依存する葉の老化と暗条件で誘導される葉の老化をともに促進することが明らかとなった。(植物環境科学:山口、石川、川合)
- Nakamura R, Hikita M, Ogawa S, Takahashi Y, Fujishiro T (2020) Snapshots of PLP-substrate and PLP-product external aldimines as intermediates in two types of cysteine desulfurase enzymes. FEBS J 287: 1138-1154
- システイン脱硫酵素は、鉄硫黄クラスター生合成系の無機硫黄の供給を担う酵素であり、活性部位であるPLP周辺の部分構造の違いから、I型とII型に分類される。今回、I型のNifS酵素と、II型のSufS酵素の反応中間体のX線結晶構造解析に成功し、NifSとSufSで、(1)共通の反応中間体を形成すること、(2)触媒ループの構造変化が部分的に異なることを明らかにした。(分子統御:藤城、高橋康)
- Sato M, Nagano M, Jin S, Miyagi A, Yamaguchi M, Kawai-Yamada M, Ishikawa
T (2020) Plant-Unique cis/trans Isomerism of Long-Chain Base Unsaturation is Selectively Required for Aluminum Tolerance Resulting from Glucosylceramide-Dependent Plasma Membrane Fluidity. Plants 9: 19
- スフィンゴ脂質は真核生物に普遍的な生体膜脂質であるが、植物ではその化学構造が独自に発達している。中でも植物でしか見出されない長鎖塩基シス型不飽和結合が、イネにおいて細胞膜の流動性を介してアルミニウム耐性に寄与していることを明らかにした。アルミニウムは主に酸性土壌で強い毒性を示す土壌金属であり、日本を含む世界中の広い地域で作物生産性を低下させる要因となっている。イネのΔ8不飽和化酵素は、他の植物に比べ高いシス型生成活性を有することから、この酵素遺伝子を利用した農作物のアルミニウム耐性向上が期待できる。(植物環境科学:石川、川合、山口)
日本語総説
- 玉井真悟、仲本準、田中元雅(2020)アミロイドの代謝制御と構造多型. 生物物理 60: 236-240
- プリオンなどのアミロイドの伝播機構の解明は、神経変性疾患(神経難病)を理解し治療法を開発する上で重要です。本総説では、アミロイドの構造多型や分子シャペロンによるアミロイドの脱凝集(可溶化)について概説しました。さらに、酵母プリオンSup35のモノマー構造の揺らぎがアミロイド構造や細胞表現型に多型をもたらすことを明らかにした理研・田中グループの成果を紹介しました。(代謝学:仲本)
- 石川寿樹(2020)植物固有なスフィンゴ脂質糖鎖の多様な構造と機能.化学と生物 58:659-666
- スフィンゴ脂質は真核生物に普遍的な細胞膜の主要構成分子であるが、その化学構造は生物ごとに大きく異なっており、それぞれに独自の分子機能が発達していると考えられる。本総説では、植物に固有なスフィンゴ脂質構造に関する最新の研究動向を概説し、さらに糖鎖型多様性を決定する糖転移酵素ファミリーの同定と、それらの遺伝学的解析からみえてきた植物型糖鎖の機能分化に関する当研究室の研究成果を中心に紹介した。(植物環境科学:石川)
単行本
- Weigand W, Apfel U-P, Horch M, Zebger L, Fujishiro T 'Part I: Chapter 2,
Hydrogen development' (Edited by Weigand W, Apfel U-P) "Bioorganometallic
Chemistry" pp.13-136, De Gruyter, 2020年5月発行
- ドイツDe Gruyter社から出版された、錯体化学-有機化学-生化学の新たな横断領域である「生物有機金属化学」の修士以上向けの教科書を分担執筆しました。当該分野の基礎知識と最新の研究内容がまとめられています。 (分子統御:藤城)
学会発表
3月20日 オンラインで開催された日本農芸化学会2021年度大会で研究発表
- 発表者:光島豊、仲本準
題目:シアノバクテリアにおける多様なHsp70(DnaK)シャペロン系に関する生化学的解析
3月16日 オンラインで開催された第62回日本植物生理学会年会で研究発表
- 発表者:寺田有沙、高橋裕二、鈴木翔、戸澤譲、日原由香子
題目:シアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803 におけるアンチシグマ様因子 PmgAとアンタゴニスト様因子との相互作用 - 発表者:菱田温子、肥後明佳、松谷峰之介、荷村(松根)かおり、渡辺智、得平茂樹、日原由香子
題目:CRISPRi を用いたシアノバクテリア Synechocystis sp. PCC 6803のcyAbrB1転写因子の機能解析 - 発表者:加藤直喜、門脇太朗、日原由香子
題目:Synechocystis sp. PCC 6803における転写因子RpaBのDNA結合活性の制御機構
1月29日 オンラインで開催された第4回大隅基礎科学創成財団創発セミナーで招待講演
- 発表者:豊田正嗣
題目:植物に神経はあるのか? -長距離・高速Ca2+シグナルを介した植物の虫害抵抗性反応
12月18日-19日 オンラインで開催されたウイルス学若手研究集会で口頭発表
- 発表者:高橋朋子
題目:microRNAによる抗ウイルス転写後遺伝子発現制御
12月18日 オンラインで開催された国際会議(INTERNATIONAL e-CONFERENCE ON CYANOBACTERIAL AND ALGAL BIOTECHNOLOGY)で招待講演
- 発表者:仲本準
題目:Diversification and specialization of molecular chaperones in cyanobacteria and adaptation/acclimation of cyanobacteria to abiotic stress
12月5日 オンラインで開催された日本応用糖質科学会 東日本支部ミニシンポジウムで招待講演
- 発表者:豊田正嗣
題目:植物の長距離・高速カルシウムシグナルを可視化する
12月4日 オンラインで開催された第43回日本分子生物学会年会で研究発表
- 発表者:Tahmina Aktar、仲本準
題目:pHによるシャペロニンGroEL機能の調節
11月30日 オンラインで開催された第20回 植物科学シンポジウム2020で招待講演
- 発表者:豊田正嗣
題目:広視野カルシウムイメージングで見る植物の虫害防御応答
9月25日 オンラインで開催された情報分子可視化技術勉強会で招待講演
- 発表者:豊田正嗣
題目:大きな植物をまるごと可視化する ~広視野・高速カルシウムイメージングの挑戦~
9月25日 オンラインで開催された第30回イソプレノイド研究会で研究発表
- 発表者:⿊岩⾵、⻄野輝、廣森美樹、⼭⼝晴彦、宮城ゆき乃、⼭下哲、⾼橋征司、⼾澤譲
題目:完全インビトロ再構成系によるパラゴムノキ(Hevea brasiliensis) 由来ポリイソプレン合成酵素の機能解析 - 発表者:三輪幸祐、廣森美樹、青木裕一、和氣駿之、小島幸治、山下哲、山口晴彦、宮城ゆき乃、戸澤譲、中山亨、高橋征司
題目:サポジラ(Manilkara zapota)由来trans型ポリイソプレノイド生合成酵素のクローニングと機能解析 - 発表者:矢内太郎、今泉璃城、高畑佳佑、山口晴彦、宮城ゆき乃、竹下浩平、戸澤譲、高橋征司、山下哲
題目:長鎖シス型プレニルトランスフェラーゼのパートナーであるNogo-B recetptorファミリーのタンパク質構造について
9月19日-21日 オンラインで開催された日本植物学会第84回大会で研究発表
- 発表者:高橋大輔, Kim Johnson, Antony Bacic, 曽我康一, Arun Sampathkumar, Ellen Zuther, 小竹敬久, Dirk K. Hincha
題目:低温および氷点下温度馴化に伴う細胞壁多糖類の変動 - 発表者:阿部桃太、宮川萌、西垣南歩、山梨優貴子、杢屋公介、円谷陽一、高橋大輔、小竹敬久
題目:KONJACタンパク質がビタミンC合成に与える影響 - 発表者:梅澤輝、曳田優、松村理奈西垣南歩、高橋大輔、円谷陽一、小竹敬久
題目:UDP-L-アラビノース合成系の起源とその生理的役割の解明 - 発表者:西垣南歩、吉見圭永、國枝正、高橋大輔、円谷陽一、小竹敬久
題目:KONJAC1タンパク質のグルコマンナン合成における役割 - 発表者:九鬼寛明、曽我康一、西垣南歩、竹中悠人、山口雅利、石水毅、高橋大輔、小竹敬久
題目:シロイヌナズナmur1-1胚軸をモデルとした細胞壁の化学/物理学的特性の解析 - 発表者:森和久、宮城敦子、石川寿樹、山口雅利、小竹敬久、川合真紀
題目:イネのカマイラズ変異体のメタボローム解析 - 発表者:戸澤譲
題目:インビトロ翻訳系を利用した植物膜タンパク質の機能解析 - 発表者:豊田正嗣
題目:虫にかじられた植物が発する緊急信号を見る (公開講座「植物はオモシロイ!」にて招待講演)
9月17日 オンラインで開催された日本遺伝学会第92回大会で研究発表
- 発表者:小竹敬久、菊池馨、角田帆乃花、九鬼寛明、金子哲、澤進一郎、円谷陽一、高橋大輔
題目:植物の細胞壁プロテオグリカンの機能発現に関わる新奇因子の探索
9月16日-18日 オンラインで開催された第58回日本生物物理学会で研究発表
- 発表者:豊田正嗣
題目:Shining light on rapid signal transduction in plants
9月14日-16日 オンラインで開催された第93回日本生化学会大会で研究発表
- 発表者:國近航平、藤城貴史、高橋康弘
題目:鉄硫黄クラスター生合成足場タンパク質 IscUの[2Fe-2S]クラスター集積型二量体構造とその意義 若手優秀発表賞受賞 - 発表者:小川翔子、中村亮裕、小松茉里佳、引田理英、藤城貴史、高橋康弘
題目:鉄硫黄クラスター生合成マシナリーのシステイン脱硫酵素のシクロセリンによる阻害機構の解明 - 発表者:相羽花菜、野上和希、飴野佑美子、藤城貴史、高橋康弘
題目:枯草菌における鉄硫黄クラスター生合成系の補助的因子群の解析
8月11日 オンラインで開催された女性科学者の芽セミナー(埼玉大学WEBオープンキャンパス2020連携企画)で研究紹介
- 発表者:高橋朋子
題目:ウイルス感染と遺伝子の働き
7月27日-31日 オンラインで開催されたPlant Biology 2020 World Summit (米国、ワシントンDC) で発表
- 発表者:Kakeru Suzuki, Yuzuru Tozawa
題目:Establishment of an in vitro translation system from rice callus extracts