講演会&セミナー 2010年度
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2010年12月22日 (水) 16時20分ー17時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー
演者: 斎藤 成也 教授 (国立遺伝学研究所 集団遺伝研究部門)
題目: 哺乳類の系統特異的進化を生じたゲノム変異の探索
ヒトをはじめとして、現在さまざまな脊椎動物のゲノム配列が決定されている。それらの比較から、タンパク質の非コード領域には進化的に高度に保存されているDNA配列が多数存在することがわかってきた。それらの中には実験的に遺伝子の発現調節をする機能を持つとわかったものもある。これらの保存配列は脊椎動物全体あるいは哺乳類全体で相同なので、それぞれ脊椎動物あるいは哺乳類のどの系統でも重要な働きを持っていると思われる。一方、生物進化の特徴のひとつに多様性があるが、これらの多様性は、ゲノム配列では系統特異的な配列が生じて、それらがその系統内でのみ進化的に保存されているという状況に対応するはずである。このような、系統特異的進化を生じたゲノム変異を探索するために、ゲノム配列が多数決定されている哺乳類のうち、霊長類と齧歯類それぞれのタンパク質の非コード領域に特異的に保存されている塩基配列を抽出し、それらの性質を調べてみた。一連の比較ゲノム解析により、それぞれの系統において数百個の保存配列を見出し、それらの近傍に位置するタンパク質コード遺伝子を分類してみた。その結果、いくつかの特徴的な機能を持つタンパク質コード遺伝子が多いことがわかった。
2010年11月10日 (水) 15時ー16時30分 理学部3号館11番教室 分子生物学科社会人セミナー
演者: 佐々木 幸子 博士 (元名古屋大学大学院生命農学研究科教授)
題目: 逆風を順風に
大学を卒業したが就職口がない時代に、真理の探究を目指して一人前になろうと決心し、農学部で40年間研究した。胸ときめく体験を「研究の秘訣」と「女性が研究者として生きる秘訣」とにまとめてお伝えする。
<講師紹介>
佐々木幸子先生は、植物の脂肪酸合成の鍵酵素である葉緑体のアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACCase)が、当時、世界中で信じられていた多機能性ポリペプチドではなく、4つのサブユニットからなる細菌型の多酵素複合体であることを発見された方です。発見のきっかけは、4つのサブユニットの遺伝子のうち、1つが葉緑体ゲノムにコードされることを配列情報解析から見いだしたことです。このサブユニットの発現量は、葉緑体内の全ACCaseの発現量を決めています。さらに、イネ科の葉緑体は多機能性ポリペプチド型のACCaseを含み、除草剤感受性を示すことなどを発見されています。
講演では、研究内容を題材にした「研究の秘訣」と、未来の女性研究者に対するメッセージである「女性が研究者として生きる秘訣」に分けてお話していただきます。
2010年10月20日 (水) 15時ー16時30分 理学部3号館11番教室 分子生物学科社会人セミナー
演者: 伊東 忍 博士 (株式会社 アイ、ティー、オー C.E.O.)
題目: 世界の女性が日本の若手ケミストに期待する
2010年9月アルゼンチンで開催された国際化粧品化学者会(IFSCC)で日本人研究者の演題が上位の賞を独占した。 日本の基礎化粧品技術は、もはや世界一の水準であり、日本のコスメは世界中の女性達から高い評価を受けている。 演者は、1982年上智大学の化学科を卒業後、大手化学メーカーで、化粧品用の抗酸化ビタミン誘導体の研究開発に従事。 2000年より美容医療材料関連の会社を立ち上げ、現在、慶応大学薬学部創薬物理化学研究室及び東京女子医科大学先端生命医科学研究所にてアンチエイジング用途の新規化合物の開発を継続中。 2005年には、三菱商事系のバイオベンチャー会社の技術担当重役として世界初の炭素同位体フラーレンを応用した美白化粧品を開発。 本講演では、これまで手掛けてきた美容関連材料とその科学的エビデンスを紹介し、今後も日本の若手ケミストの国際的活躍が期待される美容化学産業の一端を紹介する。 当日、化粧品原料サンプルを見ていただく時に、粘度や色調を見ていただくために、実際に原料を練っていただこうと思っております。道具は50人分を用意しまして、こちらからお持ちします。
http://www.provitamin.jp
2010年9月17日 (金) 14時20分ー15時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー
演者: 坂本 順司 教授 (九州工業大学 情報工学研究院 生命情報工学研究系)
題目: 微生物の好気的エネルギー代謝の多様性 - グラム陽性細菌の呼吸鎖を中心に -
本セミナーは、大学院の集中講義で来学される機会にお願いしたものですが、大学院生だけでなく、学部学生や教員の皆様の参加を歓迎します。
生物界の主なエネルギー獲得系には、光合成と呼吸がある。細胞呼吸の中心的な過程である酸化的燐酸化は、呼吸鎖の酵素群とFo,F1-ATP 合成酵素とが担っており、真核生物ではミトコンドリアで行われている。酸化的燐酸化の研究は、歴史的にミトコンドリアに集中してきた上、微生物を研究材料にし、遺伝子組換え技術を駆使した研究でさえ、主にグラム陰性菌のミトコンドリア-タイプの酵素がモデル系として利用されてきた。その結果、シトクロム酸化酵素の結晶構造解析やATP 合成酵素の回転触媒機構などの華やかな成果を上げてきた。一方で、微生物の呼吸鎖に多様性があることも古くから知られてはいたが、遺伝子工学の適用が上記の「普遍性」の側に集中したことなどにより、明確な分子レベルの特徴付けには不十分な面が残っていた。我々は主にグラム陽性細菌を研究対象にし、いくつもの非正統的(noncanonical)タイプの新しい呼吸鎖酵素を同定してきた。またタンパク質精製・生化学・酵素学・遺伝子クローニング・細胞の遺伝的改変などにより、酵素複合体の性質と多様性および細胞の好気的エナージェティクスを解明してきた。微生物は一般に、酸素親和性やエネルギー変換効率の異なる複数の呼吸鎖経路を持ち、環境に応じて使い分けている。また従来偏性嫌気性と見なされていた微生物にも特殊な酸化酵素があって、エネルギー獲得に働いている。呼吸鎖酵素の多様性の研究は、発酵工業生産の上で有用な菌の呼吸鎖の効率を遺伝的に改良したり、病原菌の呼吸を特異的に阻害して「息の根を止める」がヒトや家畜の呼吸には有害作用のない新しい抗菌薬を開発する等への応用が期待される。
2010年5月26日 (水) 16時20分ー17時50分 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー
演者: 平野 博之 教授 (東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻)
題目: 花の形づくりの遺伝的制御機構 ーその保存性と独自性ー
被子植物の花の形や大きさはきわめて多様です。その花の発生や形態を制御する分子メカニズムには、被子植物に広く保存されている一般法則があるのでしょうか?また、多様な花を生じる植物には、それぞれ独自のメカニズムや独自に働く遺伝子があるのでしょうか?本セミナーでは、私たちの研究室で行っている単子葉類のモデル植物であるイネの花の発生に関する研究成果を紹介するとともに、花の発生を制御する遺伝子機能の保存性と独自性についても議論したいと思っています。特に、以下の2つのトピック焦点を当てて、最新の研究成果についてお話ししたいと思います。
1.花の形態進化に関与する遺伝子
2.雄しべの裏表を決定する機構
興味のある方は、次の総説や論文を参考にしてください。
- 平野博之「遺伝子の働きによる花の形作り」「植物の軸と情報」
- 特定領域研究会編「植物の生存戦略」 pp. 73-98、朝日選書(2007)
- 平野博之「花の発生のしくみの保存性と多様性-イネ科植物による進化発生学へのアプローチ」
- 蛋白質核酸酵素51: 921-932(2006)
- Yoshida A, Suzaki T, Tanaka W and Hirano HY (2009) The homeotic gene LONG STERILE LEMMA (G1) specifies sterile lemma identity in the rice spikelet. Proc Natl Acad Sci USA 106: 20103.20108
2010年4月27日 (木) 16時ー18時 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー
演者: 鈴木 基生 博士 (香川大学医学部分子微生物学研究室)
題目: ウェルシュ菌μ-toxinとSPPシステム-埼玉大学卒業後の研究
クロストリジウム属は芽胞を形成する嫌気性グラム陽性桿菌の総称であり、破傷風菌やボツリヌス菌などが含まれる。ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)もクロストリジウム属を構成する種の1つであり、多数の毒素、酵素を産生することが知られている。ヒアルロニダーゼもこれらの毒素の1つであるμ毒素に分類されるが、報告はほとんどない。
ヒアルロン酸はβ-D-N-アセチルグルコサミンとβ-D-グルクロン酸が交互に結合してできた直鎖状の高分子多糖であり、結合組織に多量に分布するグリコサミノグリカンの主要構成成分である。ウェルシュ菌の産生するμ-toxinは、細胞外マトリックスの構成成分であるヒアルロン酸を分解することによって、ガス壊疽時の感染巣拡大に関与する拡散因子と考えられている。
ウェルシュ菌のゲノム解析の結果では、複数のhypothetical hyaluronidase遺伝子が報告されているが、実際の発現パターンやそれら酵素の機能的差異などについては不明である。既に報告されているヒアルロニダーゼとの相同性が高いNagH遺伝子がヒアルロニダーゼの構造遺伝子であると推測されていたが、単離したNagHはN-アセチルグルコサミダーゼ活性は示すものの、ヒアルロン酸分解活性は検出できなかった。そこで、ウェルシュ菌がヒアルロニダーゼを発現していることを確認するため寒天培地上でヒアルロニダーゼ活性の試験を行い、菌株によって発現量に違いがあることを見いだした。さらに、ザイモグラフィを行った結果、ウェルシュ菌は複数のヒアルロニダーゼを発現し、菌株によりその発現量も多様性を示すことを明らかにした。ウェルシュ菌の培養上清についてヒアルロニダーゼ活性を指標として部分精製することにより、NagH遺伝子とは別個のヒアルロニダーゼの構造遺伝子を同定することに成功した。
また、2007年5月のセミナーで解説する機会が与えられたSPPシステムについても最近のデータと合わせて改めて紹介したい。
2010年3月11日 (木) 15時ー17時 理学部3号館11番教室 分子生物学科セミナー
演者: Professor Abraham H. Parola (Dept of Chemistry, Ben-Gurion University of the Negev, Israel)
題目: MEMBRANE-CATALYZED NUCLEOTIDE EXCHANGE ON DnaA
DnaA is the initiator protein for chromosomal replication in bacteria; its activity plays a central role in the timing of the primary initiations within the Escherichia coli cell cycle. A controlled, reversible conversion between the active ATP-DnaA and the inactive ADP forms modulates this activity. In a DNA-dependent manner, bound ATP is hydrolyzed to ADP. Acidic phospholipids with unsaturated fatty acids are capable of reactivating ADP-DnaA by promoting the release of the tightly bound ADP. The nucleotide dissociation kinetics, measured in here with the fluorescent derivative 3'-O-(N-methylantraniloyl)-5'-adenosine triphosphate, was dependent on the DnaA's density on the membrane in a cooperative manner: it increased fivefold with decreased protein density. At all surface densities the nucleotide was completely released, presumably due to protein exchange on the membrane. Distinct temperature dependences and the effect of the crowding agent ficoll suggest that two functional states of DnaA exist at high and low membrane occupancy, ascribed to local macromolecular crowding on the membrane surface. These novel phenomena are thought to play a major role in the mechanism regulating the initiation of chromosomal replication in bacteria.